リフォームをする際、特にマンションは構造上の規制を受ける箇所があります。
これから挙げる項目はどのマンションにも共通することで、プランや工事範囲に大きく影響します。
最初は理解しづらいことが多いと思いますが、プランのキーポイントになりますので、何となくでも頭に入れておくと良いでしょう。
①水関係
PS(パイプスペース、またはパイプシャフト)
マンションを縦に貫く配管が中に入っています。主に排水用の縦管です。
間取り図の中に「PS」と書いてある小さな箱があると思います。
水まわり(キッチン、トイレ、洗面化粧台、ユニットバス、洗濯機置き場)から接続されており、専有部内の排水を外に流すルートです。
大抵は水まわり機器の近くにあります。
PSの壁は撤去することはできますが、縦管は共有部になるので、動かしたり、撤去することはできません。
影響するもの
・プラン
(例)間取図の黄色がPS
排水経路
一般に、水まわり機器から縦管までのルートを表します。排水は、配管に勾配をつけて流すため、水まわり機器がPSから遠くなるほど、床の高さが上がっていきます。
また、排水経路の取り方によっては、水まわり機器自体に制限がかかる場合もあり、水まわりを動かすプランの際にはこれが非常に重要になります。
後述する「床の構造」とも密接な関係があります。
影響するもの
・水まわり機器
・床の構造
(例)間取図の青い線が排水経路
ダクト
キッチン、浴室、洗面室、トイレの排気をするために、天井裏に隠れている大きな配管です。
多くのマンションでは、このダクトのために、リビングよりも、キッチン、洗面室、トイレ、廊下の天井高が低くなっています。
また、部屋内に「梁型」と呼ばれる、大きな出っ張りが出てくることもあります。
専有部から外に排気を出すためのものですが、経路上でコンクリートを貫通しているところは変えることができないため、ダクトルートに制限が出てきます。
ダクトルートの下は、天井高が低くなります。(多くのマンションでは、廊下の上にダクトルートを取るため、廊下の天井高が低くなります)
影響するもの
・天井高
②機器関係
スプリンクラー
各部屋の天井に付いている消防設備です。原則として11階以上の部屋に設置が義務付けられております。
プランを計画する際、スプリンクラーが全ての床に水を噴射できるような配置が必要なため、壁の位置が変わったり、部屋数が増えたりした場合、スプリンクラーの位置の変更や増設の必要が出てきます。
スプリンクラーの配管は全て天井裏にあるため、スプリンクラーの移動のためには天井を解体する必要があります。
ちなみに、11階というのは、はしご車の届く距離の限界から設定されています。
影響するもの
・天井の解体範囲
感知器
天井に付いている、火災を感知し、管理センターへ信号を送る機器です。
各居室に取り付けが必要なため、壁の位置が変わったり、部屋数が増えたりした場合、スプリンクラーと同様に位置の変更や増設の必要が出てきます。
配線は全て天井裏にあるため、感知器の移動のためには天井を解体する必要があります。
※電池式の接着されている警報器(感知して、音も出す機器)は簡単に動かしたり、増やしたりできます。
影響するもの
・天井の解体範囲
分電盤
共用部から専有部に、電気用の太い幹線が入り、最初の分電盤に接続され、分電盤から各電気設備に配線されます。
専有部に入ってくる幹線は基本的に伸ばすことができないため、間取を変えるリフォームの際に動かしたい場合でも、分電盤の位置は幹線が届く範囲に限られます。
動かせても1〜2m程度となることが多いです。
また、食洗機やIH等の電気容量が大きいものは、分電盤から専用で配線しないとブレーカーが落ちてしまうため、分電盤から配線を引き込む必要があります。
その場合、分電盤から必要な電気設備までの間の壁や天井を、一部解体する必要があります。
影響するもの
・電気設備の容量
・配線経路
③構造関係
構造部
コンクリートの柱、梁、壁は解体ができません。
その為、コンクリートの部分はコンセントや照明設備を増やす・減らす・動かすことができません。
一方、専有部内の石膏ボード等でできている壁は全て解体することができます。
壊せるか壊せないかの違い
・「コンコン」と言えば解体してOK
・硬いところはコンクリートのためNG
影響するもの
・電気関係の位置
エアコンスリーブ・通気口
コンクリートには、設計上エアコンの配管を通したり、通気のために一部穴が開いています。
構造部は穴を開けることは基本的にはできないため(まれに管理規約で許可されていることもあり)、間取を変えた後も、エアコンはここから配管する必要があります。
影響するもの
・通気の位置
④床の構造
仕組み
マンションの床面の構造は、大きく2種類に分かれます。
- 直床式(じかゆか):コンクリートに直接床材を貼る
- 置床式(おきゆか) or 二重床式:コンクリートと床面の間に空洞がある
メリット | デメリット | |
直床 | (1階あたりの高さを低くできる) | ・排水経路に制限が生まれる ・一部段差ができることがある ・床材の制限がある |
置床 | ・排水経路の余裕ができる場合がある ・バリアフリーにしやすい ・床材を自由に選べる | ・床高を上げた分、天井高が下がる |
直床式は、専有部内でのメリットはあまり出ないですが、マンション全体で見た場合にメリットが出ることが多いです。
異なる方式に変えられるか
基本的には、直床式なら直床式のまま、置床式なら置床式のままとすることが多いですが、条件が揃えば直床式から置床式に変更することもできます。
その場合、排水経路、バリアフリー、床材選定に大きなメリットが出ますが、天井高が15cm〜20cm程度下がる可能性があります。
排水経路
置床式の場合、コンクリートと床面の間に排水管を通すため、自由度が高いことが多いです。
直床の場合、直下がコンクリートのため、排水経路を動かすのが難しい場合が多いです。
影響するもの
・床材
直床式
置床式 or 二重床式
⑤最後に:リフォーム会社で言い分が異なることがある!
まれにリフォーム会社がこれらを考慮せずプランを作成してくることがありますので、十分注意してください。
リフォーム会社によって説明内容が異なることがあります。
これらは、リフォームができるかできないかだけでなく、場合によっては管理規約に抵触する可能性もあります。
私も商談中のお客様から「◯◯社さんはこう言っていました」と話を受けることがありましたが、およそ現実的ではないプランを提案されており、驚いたことが何度もあります。
どーんとキッチンを動かすプランを提示されると、つい魅力に気を取られがちですが、これらがしっかりクリアできていないと、後でプランの変更を余儀なくされることがあります。
リフォーム業界はまだまだ発展途上で、残念ながらあまり経験のない会社もあります。
建物ごとにも状況が大きく異なりますので、「リフォーム会社の人が言っているんだから」と鵜呑みにしすぎず、まずはここで書いた内容だけでも確認をしてみて下さい。
プランの良し悪しに加え、リフォーム会社の選定の際には
「ちゃんと自分たちのマンションを理解した上で提案してくれる会社か」
を基準に選ぶと良いでしょう。
豆知識:竣工図面の確認
マンションには、竣工時の詳細図面が必ず作成されており、ほとんどのマンションで保管、備え付けられています。
リフォームの際には、新築時の販売間取図だけでなく、竣工図面を確認することで、これらの条件をクリアできる確率が格段に上がります。
区分所有者の申請が必要になる場合もありますが、特に水まわりを動かすようなリフォームの際には、必ずリフォーム会社に見てもらい、プランの検討に役立てましょう。